第1部:退職代行サービス市場の現状と法的構造
市場の定義、規模、および利用者動向
退職代行の口コミを業態別に分解。
日本の退職代行サービス市場は、近年急速に拡大しており、自力での退職手続きが困難な労働者の需要に応える形で成長を遂げています。利用者が退職代行サービスに頼る主な背景には、深刻なハラスメント、過度な残業や休日出勤、人間関係の悪化、および給与や待遇への不満といった、会社側との間に潜在的な摩擦や法的な課題が潜んでいるケースが多く見られます 。
これらの退職理由、特にパワハラや未払い賃金といった要素は、単なる「退職の意思伝達」を超越し、必ず会社側との「交渉」や「法的な清算」を必要とする可能性が高いという点で、市場構造に重要な影響を与えています。このような潜在的な法的紛争の需要が存在することが、後述する法的権限を持たない一般企業のサービス提供におけるリスクを高める根本的な原因となっています。2025年に向けても退職代行サービスの利用率動向に関する調査が予定されており、市場の関心と成長は継続すると予測されています 。
サービスの法的区分(弁護士法人、労働組合、一般企業)の基礎概念
退職代行サービスは、その運営主体が持つ法的権限によって、提供可能なサービス範囲、費用構造、および依頼者への法的安定性が根本的に異なります。この構造的な違いこそが、利用者からの口コミ評価の多様性や、サービスの成功・失敗の要因を分ける核心となります。
サービス提供者は大きく以下の3つの区分に分類されます。
- 区分1:弁護士法人: 弁護士法に基づき、依頼者の代理人として、退職に関するあらゆる法律事務(交渉、請求、訴訟準備など)を包括的に代行できます。例えば、弁護士法人みやびなどがこの形態に該当します 。
- 区分2:労働組合: 労働組合法に基づく団体交渉権を行使し、組合員(依頼者)の労働条件(退職日、有給消化、給与支払い確認など)に関する事項について、会社と合法的に交渉することが可能です 。
- 区分3:一般企業(民間): 法的権限を一切持たず、依頼者の退職意思を会社に「伝達する」という、伝言役としての機能に限定されます 。交渉や法的対応を行うことは、厳しく制限されています。
弁護士法第72条に定める「非弁行為」の厳密な定義と適用範囲
退職代行サービス市場において、業態間の法的安定性を決定づける最も重要な要素は、「非弁行為」(弁護士法第72条違反)のリスクです。弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止しています。
非弁行為に対する罰則は厳しく、違反した者には「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」が科されます。また、法人が業務に関して非弁行為を行った場合には、その法人にも「300万円以下の罰金」が科されます。この高額な罰則は、非弁行為リスクが深刻な法的リスクであることを示しています。
「法律事件」の解釈は広範であり、例えば、賃金未払い・残業代未払いの争いは具体的な法的紛争性を持ち「非弁行為」に該当すると判断されます。会社との間に具体的な争い(交渉)が生じた時点で、これは法律事件となり、法律的な交渉権限を持たない一般企業の介入は違法となります。例えば、民間業者に依頼したにもかかわらず、会社側がその行為を「違法行為だ」と突っぱね、依頼者が直接会社とやり取りせざるを得なくなった事例が報告されています。
各業態が法的・実務的に対応可能な業務範囲の比較分析
各業態が法的に対応可能な業務範囲には明確な境界線があり、この限界が利用者の成功または失敗を決定づけています。
弁護士事務所は、未払い残業代の請求、慰謝料請求訴訟、あらゆる交渉に完全に対応することが可能です。依頼者にとって最も安全かつ確実な選択肢であり、トラブルの回避を最優先する場合には弁護士への依頼が推奨されます 。
一方、労働組合は、団体交渉権により、退職日調整や有給消化、給与支払い確認といった労働条件に関する交渉が可能です 。しかし、慰謝料請求訴訟のような法廷闘争や、本格的な損害賠償請求は弁護士に依頼する必要があります 。
民間企業が対応できる業務は、法的に「退職の意思を伝えるだけ」に限定されます 。民間企業が「弁護士監修」を謳うサービスを提供するケースもありますが 、顧問弁護士の監修があったとしても、民間業者が交渉権限を得るわけではありません 。これは、弁護士法第72条の精神を回避しつつ、顧客に安心感を与えるためのマーケティング戦略であり、実務上の法的限界が変わるものではありません。
このように、利用者側がパワハラや未払い賃金など、交渉が必要な状況で利用する限り、現場担当者は非弁行為のリスクに常に晒されることになります。この構造的な齟齬が、一般企業のサービスにおける「悪い口コミ」の発生源となっています。
退職代行サービス業態別法的権限とリスク比較
| 比較項目 | 弁護士法人 | 労働組合 | 一般企業(民間) |
| 法的根拠 | 弁護士法に基づく代理権 | 労働組合法に基づく団体交渉権 | 意思伝達の代行 (伝言役) |
| 交渉権限 | 〇 (あらゆる交渉、法的手続き) | 〇 (労働条件に関する事項) | × (法律事務にあたる交渉は不可) |
| 未払い賃金請求 | 〇 (訴訟・交渉を含む) | 〇 (交渉のみ) | × (非弁行為リスク大) |
| 慰謝料・損害賠償請求 | 〇 (専門) | × (原則不可) | × (違法) |
| 非弁行為リスク | 極めて低い | 低い(団体交渉範囲内) | 極めて高い(交渉を行った場合) |
| 料金水準(傾向) | 高額 | 中程度 | 低額 |
労働組合運営 / 労働組合が主体のサービス
| サービス名 | 公式ページ | 基本料金(税込) | 権限・特徴 |
|---|---|---|---|
| 🏅退職代行ガーディアン | 19,800円 | 団体交渉権に基づく交渉可。即日対応、公的機関認証あり。 |
民間企業運営(提携労組あり)
| サービス名 | 公式ページ | 基本料金(税込) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 🏅退職代行Jobs | 27,000円 2,000円/組合加入 | 民間企業主体。提携労組により交渉可能。弁護士監修。 | |
| 🏅退職代行SARABA | 24,000円 | 24時間365日対応。LINE相談など窓口の利便性が高い | |
| 🏅退職代行オイトマ | 24,000円 | 労組を通じて団体交渉可能。返金保証・24時間対応。 |
※価格の差はアフターサポートの内容に応じたものであり、料金だけで比較することはおすすめできません
| 比較項目 | 退職代行 Jobs | 退職代行 SARABA | 退職代行 OITOMA |
|---|---|---|---|
| 運営主体(交渉権限) | 労働組合提携(ユニオンジャパン)◎ 団体交渉権あり | 労働組合運営(SARABAユニオン)◎ 団体交渉権あり | 労働組合運営(日本通信ユニオン)◎ 団体交渉権あり |
| 料金(税込) | 27,000円 + 組合加入2,000円 | 24,000円 | 24,000円 |
| コンプライアンスリスク | 低 | 低 | 低 |
| 後払い対応 | ◎ 柔軟に相談可能 | × 対応記載なし | ◎ 後払い対応 |
| 全額返金保証 | あり | あり | あり |
| 未払い給与・残業代交渉 | ◎(団体交渉権) | ◎(団体交渉権) | ◎(団体交渉権) |
| 有給消化交渉 | ◎ 可能 | ◎ 可能 | ◎ 可能 |
| 行政・給付金診断 | △ 一般的サポート | × なし | ◎ 最大500万円の給付金診断(行政書士監修) |
| 転職サポート | ◎ あり | ◎ あり | ◎ あり |
| 転職お祝い金 | ◎ 最大3万円 | × なし | 情報なし |
| メンタルヘルスサポート | ◎ カウンセラー/コーチング支援あり | 一般的 | 情報なし |
| 行政書類テンプレ(退職届など) | ◎ あり | 情報なし | × 自分で作成 |
| 引っ越しサポート | ◎ あり | 情報なし | 情報なし |
| 総合特徴 | 生活サポートが最も総合的。特に転職祝い金が強い。 | 堅実・シンプルな構成でコスパ高い。 | 経済支援(給付金・後払い)に特化した強み。 |
| 適したユーザー | キャリア移行+生活支援を重視 | 交渉力とシンプルな料金のバランス重視 | 生活資金の不安があり後払い・給付金重視 |
純粋な民間企業運営(提携労組なし)
| サービス名 | 基本料金(税込) | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 退職代行ニコイチ | 27,000円 | 退職率100%※を強調。返金保証・転職サポート付き。 |
| 退職代行ヤメドキ | 24,000円 | 24時間対応。詳細条件は公式サイト要確認。 |
| 退職代行辞めるんです | 27,000円 | 連絡代行が中心。詳細な特徴は公式サイト要確認。 |
| 退職代行わたしNEXT | 22,800円(正) 19,800円(パ) | 女性向けに特化した退職代行サービス。 |
弁護士法人運営
| サービス名 | 公式ページ | 基本料金(税込) | 主な特徴 |
|---|---|---|---|
| 🏅弁護士法人ガイア法律事務所 | 55,000円 | 弁護士が直接対応。即日退社・有給休暇消化・残業代・退職金請求など交渉可能。全国対応・LINE無料相談あり。 | |
| 🏅弁護士法人みやび | 55,000円 | 弁護士が常駐。未払い賃金・残業代・退職金・慰謝料請求対応。公務員も含む特殊雇用形態に強い。対応スピードも高評価。 | |
| 🏅退職110番(弁護士法人) | 43,800円 | 弁護士が対応。面談不要・メール・即日対応可能。退職通知・離職票・未払い金・慰謝料請求・訴訟支援も対応。 |
第2部:弁護士法人による退職代行サービスの評価分析
弁護士法人のビジネスモデルと料金体系
弁護士法人は、依頼者の代理人として法的責任を負うため、料金は他業態と比較して高めに設定される傾向があります 。この価格は、単なる伝達サービス費用ではなく、「法的紛争解決能力」と「絶対的な安心感」を購入するための対価と見なされます。サービスによっては、成功報酬型や、請求案件に応じた追加料金体系が採用されることが多いです。
「良い口コミ」詳細分析:確実性と法的解決力への高評価
弁護士法人に対する「良い口コミ」は、その圧倒的な確実性と法的問題解決能力に集中しています。
最も評価が高い点は、未払い賃金や残業代の回収成功という具体的な金銭的成果です。例えば、弁護士法人みやびの利用者からは、「未払いの残業代を無事回収できた」という体験談が報告されており 、これは弁護士法人の最大のアドバンテージを示しています。複雑な法的請求を代行できるのは弁護士法人にしかできない業務であり、利用者の経済的損失を回復できることが高い満足度につながります。
また、高い安心感と信頼性への評価も顕著です。依頼者は、「弁護士が対応してくれるので安心感がある」と感じています 。特に、会社からの予期せぬ連絡や、会社側が強硬な態度に出た場合でも、弁護士が依頼者の盾となって対応してくれることへの期待が料金への納得感を生みます。実際に、多くの利用者は「安心を買うと思えば料金に納得できる」と評価しています 。
さらに、困難なケース、例えばパワハラなど、法的な争いが不可避な状況下でも、弁護士のサポートにより給与や退職金を満額で穏便に退職できた解決事例が報告されており 、これは弁護士法人が最も難易度の高いニーズに対応できることを示しています。
「悪い口コミ」詳細分析:費用とサービスの硬直性
弁護士法人に対する「悪い口コミ」は、主に費用対効果とサービス範囲外の側面に集中しています。
高額な費用対効果に関する不満が最も多く見られます。特に、会社が円満に退職を受け入れ、交渉や請求が不要だったケースにおいて、高額な弁護士費用が発生したことに対するオーバースペック感や不満が生じます。弁護士費用は法的リスクヘッジの保険料としての側面を持ちますが、単なる退職の意思伝達を期待していた利用者にとっては、認知のミスマッチが発生しやすい構造です。
また、転職サポートの欠如も不満点として挙げられます 。弁護士業務は法的な解決に特化しており、民間企業や一部の労働組合が提供する転職支援サービスが含まれないことが、利用者の求める「退職後の生活再建」という側面において不満につながります。
その他、手続きの堅苦しさも指摘されることがあります。法律事務所特有の厳格な手続きや、非弁行為を避けるための詳細なヒアリングプロセスが、迅速な対応を求める利用者の期待と乖離することがあります。
稀に、「会社から依頼者(利用者)に連絡がきた」という事態が発生し、依頼者が期待した「会社との完全な遮断」が達成されなかったことへの不満が報告されることもあります 。利用者の成功の定義が「法的紛争の終結」である弁護士法人側と、「会社との関係の断絶」を求める利用者側の間には、サービス成功の定義にズレが生じる可能性があることが示唆されます。
第3部:労働組合による退職代行サービスの評価分析
労働組合の法的根拠(団体交渉権)と運営モデル
労働組合運営の退職代行サービスは、労働組合法に基づく団体交渉権を法的根拠としています。これにより、弁護士法第72条の非弁行為規制の例外として、労働条件の維持改善に関する事項(退職日、有給消化、賃金支払い確認など)について会社と合法的に交渉する権限を持つことが可能となります 。
この法的独自性により、労働組合は費用を抑えつつ交渉力を提供できる点が強みとなります。中には、労働組合の交渉力と弁護士の法的対応力を兼ね備えた「ダブル体制」を、追加料金なしの低価格(例:19,800円)で提供するサービスも存在し、費用対効果のバランスで競争優位性を確立しています 。
「良い口コミ」詳細分析:費用対効果と円満交渉
労働組合運営のサービスに対する「良い口コミ」は、その費用対効果の高さと実務的な交渉力に焦点を当てています。
最も評価される点は費用対効果の最適化です。「弁護士ほど高くない費用で、会社としっかりと交渉してもらえた」という口コミが多く、これは中程度のリスク(交渉は必要だが訴訟は不要)を抱える層にとって理想的なバランスを提供します。
団体交渉権を背景とした有給消化・退職日調整の円満解決事例も高く評価されています。会社側が抵抗しがちな有給休暇の完全消化や、希望退職日の調整が、労働組合の合法的な交渉によって円満に達成された事例が目立ちます 。これは、会社を円満に辞めるために重要な条件です。
さらに、一般企業と異なり法的根拠に基づいているため、「非弁行為だ」として会社に突っぱねられるリスクが低いことへの法的安定性の確保も、利用者の安心感につながっています 。
「悪い口コミ」詳細分析:対応範囲の限界と構造的制約
労働組合運営のサービスに対する「悪い口コミ」は、主にその対応範囲の限界と、利用者が抱える問題の深刻度とのミスマッチから生じます。
最大の制約は、訴訟対応不可という点です。会社側が交渉を拒否し、深刻な未払い賃金や慰謝料請求など、訴訟に発展する可能性がある場合、労働組合では対応しきれません 。この時点で弁護士への切り替えが必要となり、費用が二重にかかるリスクや、手続きの煩雑化に対する不満が生じます。
また、労働組合が扱うのは「労働条件」に関する事項であり、純粋な損害賠償請求(パワハラ慰謝料請求など)については、弁護士ほどの専門性と権限を持たないため、利用者の期待に応えられないケースが不満につながります。
一部の労働組合サービスでは、退職代行費用とは別に組合加入費や月会費が発生するなど、料金構造の複雑性が利用者にとって誤解や不満の源となることもあります。
労働組合運営のサービスで不満が生じるケースは、サービスの質の問題というより、利用者が自身の問題を「訴訟レベルの紛争」と正確に評価せずに利用したことによる、ニーズ評価の失敗である場合が多いと考えられます。これは、労働組合が提供するサービスが、法的権限(交渉)と市場競争力(低価格)の最適なバランスを提供することで、市場の「標準解」の役割を果たしている一方で、その権限を超える領域での期待に応えられないという構造的限界を示しています。
第4部:一般企業による退職代行サービスの評価分析
一般企業のビジネスモデルと提供可能なサービス範囲の限界
一般企業(民間業者)は、弁護士法や労働組合法による制約が厳しいため、法的紛争解決能力を持つことができません。そのため、徹底した低価格戦略とスピード対応に特化することで競争力を維持しています。
法的に提供可能なサービスは、依頼者の退職意思を会社に「伝達」することのみに限定され、交渉や法的対応は「非弁行為」にあたるため、絶対に行ってはならない行為です 。この法的限界が、一般企業の評価構造の最も重要な決定要因となります。顧問弁護士監修を謳うサービスもありますが、これはあくまで法的安定性を示すための措置であり、非弁行為を合法化するものではありません 。
「良い口コミ」詳細分析:スピードと価格競争力
一般企業運営のサービスに対する「良い口コミ」は、その迅速性と価格の安さに集約されます。
最も評価が高いのは、圧倒的な低価格です。業界最安値水準(しばしば2万円台前半)でサービスが提供されるため、費用を抑えたい利用者、特に交渉の必要性を感じていない利用者からの評価は高い傾向にあります。
また、シンプルな退職意思伝達の迅速性も評価されています。複雑な法的ヒアリングや契約プロセスを経ることなく、LINEやメールで即座に依頼が完了し、迅速に会社に連絡が行くスピード感(24時間対応など)は、利用者の緊急性の高いニーズに応えています 。
これらの業者は、法的対応が不要で、単に会社に連絡することに心理的障壁を感じている層に対して、迅速かつ安価にサービスを提供することで、高い満足度を獲得しています。
「悪い口コミ」詳細分析:非弁行為によるトラブルと責任転嫁
一般企業の「悪い口コミ」は、そのビジネスモデルが持つ構造的な脆弱性に起因しており、深刻なトラブル事例が多いのが特徴です。
最も深刻な悪評は、非弁行為による会社側からの交渉拒否トラブルです。民間業者が有給消化や残業代の清算といった、交渉にあたる業務に踏み込んだ場合、会社側が代行業者を非弁行為違反として拒否し、依頼者が直接対応を迫られるケースが発生しています 。これは、サービスが中途半端に終了し、依頼者が最も避けたかった事態(会社との直接交渉)に戻ることを意味します。
また、交渉が必要な場合のサービス停止(丸投げ)も不満を生みます。利用者が有給消化や残業代の清算を依頼し、会社側が拒否の姿勢を見せた際、民間業者は「それは交渉にあたるため対応できない」と急にサービスを停止し、依頼者にその後の対応を丸投げすることがあります。これは、利用者側の「交渉も代行してくれるはず」という期待と、業者側の「法的な限界」との衝突によって発生します。
さらに、返金保証の実態に関する不満も報告されています。「全額返金保証」があっても、そもそも交渉権限がないため、会社側が強硬に出た場合にサービス自体が停滞・停止し、代行業者が「意思は伝達した」としてサービス完了を主張することで、保証が適用されないといった実態への不満が見られます。
一般企業の悪評の根本原因は、利用者側の「交渉が必要」という潜在的または顕在的な需要と、代行業者側の「交渉権限がない」という法的限界の衝突によって発生しています。市場の主要なニーズが「紛争解決」にあるにもかかわらず 、低価格に惹かれた利用者が自身の状況を過小評価し、法的権限のないサービスを利用した結果、実務上の不利益(会社との直接やり取り)を被ることになります。
第5部:総合評価と市場インサイト
業態の口コミ比較に基づく総合的な満足度要因分析
3つの業態に対する口コミ分析の結果、利用者がサービスに求める核となる価値と、それを提供する業態の強みが明確に区分されます。
| 業態 | 主要な提供価値 | 満足度傾向 | リスク要因 |
| 弁護士法人 | 絶対的な「確実性」と「法的紛争解決能力」 | 高い(複雑な事案での成功) | 費用面での不満(オーバースペック) |
| 労働組合 | 「バランス」と「交渉力」(費用対効果) | 最も安定している | 訴訟対応が必要な場合の限界 |
| 一般企業 | 「スピード」と「低コスト」 | 二極化(単純な事案では高評価、交渉事案では低評価) | 非弁行為による会社からの拒否リスク |
満足度が高く評価されるケースは、依頼者が抱える紛争性のレベルと、依頼した業態の法的権限が正しく一致している場合に発生します。逆に、失敗パターンは、低価格の一般企業に依頼したが交渉が必要なケースだった(サービス範囲ミスマッチ)、または労働組合に依頼したが訴訟が必要なケースだった(法的権限ミスマッチ)、という構図で整理されます。
ユーザーが退職代行サービスに求めるコアバリューの構造化
多くの退職代行利用者がパワハラや未払い賃金など、法的トラブルの渦中にあるという事実は 、市場の主要なニーズが「単純な伝言」ではなく「紛争解決」にあることを示しています。このニーズ構造が、非弁行為規制の厳しい日本市場において、弁護士法人と労働組合の優位性を確立させています。
業態別口コミ評価テーマの要約(定性分析結果の集計)
| 評価軸 | 弁護士法人(主要な良い評価) | 労働組合(主要な良い評価) | 一般企業(主要な良い評価) |
| 交渉・解決力 | 法的請求を含む完全解決、確実な退職保証 | 有給消化・退職日調整の円満な達成 | 不要な接触回避、意思伝達の迅速性 |
| コスト構造 | 料金は高いが、法的リスクヘッジとして納得 | 費用対効果が高く、交渉権限を持つ | 業界最安値での提供 |
| 安心感/信頼性 | 法律専門家による対応による絶対的な安心感 | 組合運営による法的安定性の確保 | 申込み/利用手続きの簡単さ |
| 主要な悪評リスク | 費用が相場より高すぎる、手続きの堅苦しさ | 複雑な法的問題に対応できない | 会社からの交渉拒否、非弁行為トラブル |
退職代行サービス利用の失敗パターンと回避策
退職代行サービスの利用における失敗パターンは、主にサービスの法的限界を誤認した利用者の選択ミスに起因します。
失敗パターン1(非弁行為トラブル)は、依頼者が民間業者に未払い賃金や慰謝料請求を依頼し、業者が交渉に踏み込み会社に拒否されるケースです 。この結果、依頼者は金銭的な請求ができず、かつ会社との関係が最悪の状態で直接交渉を迫られるという二重の不利益を被ります。
失敗パターン2(オーバースペック)は、会社との間に特段の摩擦がない状況で弁護士法人に依頼し、不必要に高額な費用を支払うケースです。
これらの失敗を回避するためには、依頼前の法的課題(交渉の有無、請求の有無)の明確な自己診断が不可欠です。紛争性の高さ、つまり会社側が反発する可能性や金銭的請求の必要性に応じて、業態を選択する戦略が最も重要となります。
市場における潜在的な法的・規制リスクの評価
退職代行市場の成長と多様化に伴い、法的規制や当局による監視が強化される可能性が高まっています。すでに、大手退職代行会社に対して、不当なあっせんの疑いがあるとして警視庁が一斉捜索に乗り出したという報道があり 、これは非弁行為以外の側面(例えば、職業安定法違反など)も含めた規制リスクが顕在化しつつあることを示しています。
市場利用者の多くが法的紛争を抱えている状況 で、法的権限のない民間企業が市場に多数存在することは、非弁行為リスクを市場構造自体に組み込むことになり、今後の法規制の焦点となる可能性が高いと評価されます。
第6部:戦略的提言
各業態が競争優位性を確立するための戦略的ポジショニング
市場の競争と法的安定性を高めるため、各業態は自社の法的権限に基づいたポジショニングを強化すべきです。
弁護士法人は、高価格帯を正当化するため、未払い賃金回収保証やパワハラによる慰謝料請求代行など、金銭的なリターンを明確に提示し、「法的紛争の保険」としての価値を高める戦略が必要です。
労働組合は、「交渉権限を持つサービスの中での最安値」というポジショニングを強化し、費用対効果のバランスを追求すべきです。弁護士とのダブル体制 を標準化することで、中リスク層の顧客満足度を最大化し、一般企業との差別化を図ることが望ましいです。
一般企業は、法的限界を正直に伝え、紛争性の低いユーザー(単純に退職を言い出せない層)に特化した、意思伝達のみの超低価格/超高速サービスとして特化すべきです。潜在的な非弁行為リスクの低減が最優先課題であり、交渉が必要なケースには決して踏み込まない厳格な運用が求められます。
サービス品質を保証し、非弁行為リスクを低減するための提言
退職代行サービス市場全体の健全性を保つためには、透明性の向上とリスク移転モデルの確立が必須です。
市場全体の透明性の向上が求められます。サービス提供者は、自社が対応できる法的範囲(交渉の可否、請求の可否)を契約前に明確に示し、非弁行為リスクの所在を利用者に啓蒙すべきです。特に民間業者は、交渉に入った瞬間に違法となる境界線を明確に伝える必要があります。
リスク移転モデルの確立は、一般企業にとって悪評回避と法的安定性確保の鍵となります。一般企業は、利用者のニーズが交渉に移行した時点で、提携する労働組合または弁護士法人へのシームレスな紹介プロセスを構築し、リスクを適切に法的権限を持つ主体に移転させる仕組みを標準化することが重要です。これにより、利用者が放置されたり、民間業者が非弁行為に踏み込む必要性が低減されます。
最終的に、退職代行市場における利用者の満足度を高めるためには、サービスの成功を「会社からの解放」だけでなく、「未払い賃金の回収」や「転職の成功」まで含めた広範な価値として捉え、各業態がその法的権限内で最大限の価値を提供できる構造を確立することが重要となります。